2016年4月アーカイブ

アテヒビ

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アテイエの冬は、薪ストーブの火をほとんど絶やさずに燃やし続け、薪ストーブ一台で全室の暖房を賄っています。
ストーブの上には常に鍋が乗って湯気を吐いていますが、それでも空気は夏に比べて乾燥しがちです。
湿気が多く洗濯物が乾かない北陸に住む者としては、薪ストーブのおかげで洗濯物は室内干しで一晩で乾くというありがたさです。

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その乾燥によって、アテイエに使われている木も夏と冬では表情が大分変わります。
木が内部に蓄えている湿気を吐き出すことで、フローリングの板は痩せて隙間を作り、柱や梁も捻れてヒビ割れを起こします。新築して初めての冬は、特に木の水分含有量が多かったので、それが吐き出されることで木に割れが生じました。
その割れる音は凄まじく、毎晩雷が落ちるようなバリバリという音がしていました。
アテ(能登ヒバ)は幹が捩れながら育っていく木で、木目が螺旋状になっているので、四角に製材した柱や梁は斜めにヒビや割れが入っていくのです。

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春、温かくなると薪ストーブの時期も終わり、梅雨時期になるにつれ、徐々に空気中の湿度が増して、木も湿気を吸い込んで今度は逆に膨らんできます。空いていたフローリングの隙間もぴったりと閉じ、柱や梁の割れ目も閉じていきます。

冬場乾燥するといっても太平洋側のように極度に乾燥するわけではなく、自然素材の木や壁や床が水分を吐き出すことで過乾燥を抑えてくれています。アテイエでは一番乾燥する時でも湿度が40%を切ることはなく、体感としては丁度いい湿度が保たれている気がします。湿度の多い夏場は逆に自然素材が水分を内に取り込むことで、極度な湿度を抑えくれるのです。
家全体が一年を通して呼吸しているのが感じられる、アテイエはそんな家です。

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ちなみに柱や梁が割れるなんて、家の強度は大丈夫なのだろうかと心配になりますが、外部に出てくる割れは材料自体の構造的な強度にはあまり影響しないのだそうです。しかし、見た目では当然クレームの対象となりやすいヒビを防ぐために、現在流通している建材はほとんど人工乾燥機でカラカラに乾燥させてから建材として出荷し、ヒビや割れが極力表面に見えずらいようにるのです。そうした材料は施工後にヒビや割れが起こらない代わりに別の問題もあります。強制的な乾燥によって、木の内部の繊維が細く壊されることによって、後々の変化が起こりずらくなるのですが、材料の強度は繊維が壊されることによって損なわれるのだそうです。言わば見た目を優先するために木本来の強さが活かしきれていないのです。

理想を言えば、昔のように裏山にあった木を11月頃に伐採し、葉枯らし乾燥で木の水分を落とし、雪解けとともに木を製材して、板にして家の準備期間の間自然乾燥させておく。家の工期も昔は大工さんが墨付けから加工までを行っていたので、現在のプレカットのように短くなく、その間にも木はゆっくりと乾燥する時間がありました。それを現在の受注施工のシステムでは家の発注、設計から施工までの時間が極端に短いがために、強制乾燥、プレカットと木の都合に合わせることなく、施主や施工者の都合で工事を短縮するのが当たり前になっているのです。

素材本来の強さや特性を最大限に活かすような、そんな智慧と技術の大系を昔の大工さん達は持っていたはずですが、現在の経済中心の世の中ではほとんどそれは活かすことができず、一部の伝統的な寺社建築を造る専門的な宮大工の世界の中でのみかろうじて受け継がれていく、かつては当たり前だったことが既に特殊な技術になってしまっているのかもしれません。ですがその特殊な技術の中にはその土地の風土に適した合理性もあったのだと思います。それらを簡単に無くしてしまうのではなく、現代の住まいにも取り入れ、少しでも活かしていくことができたらと思います。

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